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ベストプラクティス&インタビュー

日本人初のエミー賞

川村 恵(電通キャスティングアンドエンタテインメント)

2024年9月、ドラマ『SHOGUN 将軍』は、エミー賞で史上最多となる18冠を達成した。本作のキャスティングディレクターを務め、さらに日本人で初のキャスティング賞を獲得した電通キャスティングアンドエンタテインメント の川村 恵に話を聞いた。

異色の経歴

川村は1989年アド電通東京(現・電通東日本)に入社。その後電通雑誌局(当時)に出向し、雑誌畑の経験を積む。転機は、エンターテインメント誌の担当をしたこと。このことから、エンターテインメント領域への進出を目指す当時の電通キャスティングアンドエンタテインメントからの白羽の矢がたち、キャスティングに専門を移していった。
川村の働き方には、この異色の経歴も影響を与えている。無数の情報が行き交う電通雑誌局で過ごしたことで、彼女は作品のクオリティを追求するクリエイター的な視点ばかりではなく、作品を社会の大きな流れに接続するプロデューサー的な視点も身に付けることができたのだ。
「私は、ありがたいことに企画を成立させるところ―それこそプロデューサーと監督しかいないようなところから関わらせていただくことが多いんです。」
初期段階から携わるからこそ、プロデューサーや制作スタジオなどの上層部とも率直にやりとりできる。今回も川村は、スタジオ側に2つのリクエストを出したという。1つは、日本の俳優をなるべく多く起用すること。そしてもう1つは、本場の時代劇を知る日本のスタッフを起用することだった。

グローバルに働くときに大切なこと

キャスティングディレクターが、スタッフィングに意見する。これは、衝突の元にもなりかねない。しかし、スタジオのプロデューサーは川村の意見を真摯に受け止め、聞き入れてくれたという。
「これが作品にとって、非常に大きかったと思います。現場に日本人のスペシャリストが入ったことで、さまざまな面で『本物の日本』を追求することができた。今回、日本人キャスト、スタッフに注目が集まっていますが、このような意見を受け入れたアメリカの判断もすごかったと思います。」
川村は、多様なバックグラウンドを持つチームで働くときに大切にしていることを、こう語ってくれた。
「やはり、一番大事なのは調和です。人はそれぞれ違うもの。分かり合えない部分は当然ある。でも、そのうえでどれだけ言葉を尽くせるのか。歩み寄れるのかということを考えています。」

歴史の積み重ねと、時代の風

しかしそれでも、セリフの7割が日本語というこの異色の作品が、ここまで受け入れられたのはなぜだろう。尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「それは、やはり運命というか…先人たちの積み重ねの上に、時代の風も味方したと思います。」
まず『SHOGUN 将軍』というソフトの強さ。実は『SHOGUN 将軍』には原作小説が存在し、英米でベストセラーになっている。さらにこの原作をもとにして、1980年にはドラマが製作(主演は三船 敏郎)されている。このドラマも一定の成功を収めていた。
第二に、配信サービスによるコンテンツのグローバル化。米国ではこれまで字幕で鑑賞する文化は一般的ではなかった。しかし、コロナ禍で映像配信サービスへの加入が増加。そこに『イカゲーム』『パラサイト』などの躍進も重なって、非英語圏の作品も消費することが当たり前になった。すなわち、字幕への「耐性」が生じたのだ。
そして最後に、携わった俳優、スタッフの長年にわたる努力。
およそ20年前、真田 広之はアメリカに拠点を移す。着実に役を積み上げ、本作でついにプロデューサーとして大きな裁量を得るに至った。同じころ、ヒロインのアンナ・サワイは、ミュージカル『アニー』で子役としてデビューした。また同じころ、川村も雑誌からキャスティングに進出し、まったく新しい業界への挑戦を始めていた。彼らそれぞれの20年。そして、その間にあった、たくさんの作品たち。無数の人の無数の努力が重なって、この奇跡のような作品は、ついに生まれた。

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